— 感性を研ぎ澄まし、香りを受け入れる。それが「香りを聞く」こと。ふわっとした丸みの中にどっしりした重厚感を書に宿す。

万美の感性を 「 覗く 」


「 香りを聞く 」


華道や茶道と並び、日本三大芸道のひとつである「香道」の思想と精神を吹き込んだ「インスパイアリング コードー」は静寂の香り。伽羅の精油にはじまり厳選されたさまざまな香りのエッセンスに習い、作品に用いる和紙、筆、墨、墨を摺る水までこだわり書と向きあった。まぶたを下ろし、研ぎ澄ました感性で香りの声に耳を傾ける万美さん。聞こえてきたのは、ふっくらとした羽毛布団のような柔らかさと、雨で湿ったモルタルのような奥行きのある深いグレーだった。

— 「聞」という字を選んだ理由は?
香道の世界では、香りを嗅ぐことを「香りを聞く」と言い表します。緊張感をもって香りを受け入れる研ぎ澄まされた感性をさす「聞く」。これはイサム・ノグチが石の彫刻を制作する際に、“まだ掘っていいよ”、“もうここで止めておきな”と石の声を聴いて作品を制作する姿にも重なります。イサム・ノグチが言う「聴く」とは漢字が異なるのですが、作品に向き合う姿勢は見習うべきところがあると感じ、その思いを、香道の世界で言う「聞」という字にしたためました。
— 「インスパイアリング コードー」を嗅いで頭に浮かんだイメージは?
まずは重さ。重さはあるのに、すごく柔らかくて、羽毛が詰まった布団のような印象を受けました。そして、その後にグレーの色合いがフワッと広がったんです。そのグレーも、ただツルっとしたグレーではなく、雨が降って湿ったモルタルのような奥行きのある、ちょっとまだらで深い感じでした。
— 頭に浮かんだイメージを、どう作品に落とし込みましたか?
少し丸みを帯びつつも、どしっと包まれてるような雰囲気を書にすることで、重さと布団に包まれたイメージを表現しています。また、「インスパイアリング コードー」には、一つ一つ丁寧に厳選された香りのエッセンスが入っていることをお伺いして、私もその姿勢に習い、作品に用いる道具からこだわろうと。
— 今回、集めた道具について教えてください。
まずは和紙。表情のある高知県の手透きの土佐和紙を選びました。大きいもので、たたみ一畳ほど。ただ、正方形が香道の世界に合う気がしたので、今回は、職人に140×70cmサイズの和紙を2枚継いでいただいきました。墨は奈良県の古梅園という老舗の墨メーカー。濃く磨り、さらに熟成させて水で溶くことでフワっと広がった滲みが表現できます。硯(すずり)は香川県の骨董品屋で見つけた物で、すごくパワーを感じます。筆は広島の熊野筆。バサバサっと香りを包み込むように表現できる大きな筆を選びました。
— 香りに包まれた空間での制作はいかがでしたか?
香りを受け入れながら書くという行為は、気持ちにも作用して普段より柔らかい字が書けました。その瞬間をじっくり捉えながら、ゆっくりゆっくり筆を動かせたかなと思います。
— 万美さんにとって、香りとは…。
音楽を聴くことと同じように、気持ち作りに活用してます。疲れている時、気分転換した時に、部屋の中に香りを広げて包まれると心が落ちつき、“書道するぞ”という気持ちが整います。

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